I/O(にょんの基地)

インプットしたものをアウトプットする場所。

相手ありきの「好き」が、自分ゴトとしての「好き」に変わった瞬間

3曲目のイントロでギターの音が鳴り、ファンが歓声を上げた。

個人的にお気に入りの曲だったので、私も「きたーーーーーーー!」となった。

でも、今までこんなにテンション上がってたっけ。確かに好きな曲だけど。突如自分の中に現れた、これまでにはない強い盛り上がりに、驚いた。

 

Aメロが始まると、笑顔を爆発させて踊るメンバー。その表情を見た瞬間、何か色んなものが湧き上がってきた。何なのかはよく分からない、言葉にできない何か。

ただ、素敵だ、好きだ、と思ったことは覚えている。

 

間奏で一旦歌がなくなり、ダンスのみになる。会場に流れる音楽とメンバーのダンスの上に、ファンのコールが重なる。

それを「美しい」と感じた瞬間に、涙が込み上げてきた。

なんでこのタイミングで!?

確かに好きな曲だし、ジャニーズのライブで好きな曲を聴いて泣くことはあるけど、それとも違う感覚。

意味がわからないし、フロアの1番後ろで見ているとはいえ、すぐ隣には人がいる。咄嗟に涙を堪えようとした。

 

けれども、ふと、この涙には何か意味があるんじゃないか?、止めちゃいけないんじゃないか?と思った。

周りに見られたくないと思いつつも我慢することをやめて自分を解放し、パフォーマンスを凝視していた。

結局、曲が終わるまで静かに泣き続けていた。

 

 

あれは何の涙だったのか。

答えは、曲が終わる頃に自然と浮かんできた。

 

“ 相手ありきの「好き」が、自分ゴトとしての「好き」になったから。”

 

自分の中で、ずっと葛藤があった。

彼に付随するものだから好き、じゃなくて、自分自身の感覚として好き、になりたかった。

 

ひょんなことから、ライブハウスでの女性アイドルのライブを頻繁に見に行くようになった。

レベルの高いパフォーマンスを間近で見られることは新鮮だったが、普段自分が足を運んでいるライブとは状況が違いすぎて、それに対する戸惑いや警戒心がなかなか解けなかった。

もちろん、頭では分かっているのだ。難しいことを考えずに、ただその場に身を任せて音楽の世界に浸れば良い。でも、なかなかそれが出来なかった。

 

私があの世界に馴染めない原因は、それまで全く関わったことのなかった初めての環境だったからということもあったが、最大の原因は、他にあると考えていた。

それは、「自分なりのワクワクポイントが、なかなか見つからなかったから」。

ワクワクポイント…と言って通じるだろうか。テンションが上がるところ、という感じ。曲が始まるとテンション上がるとか、好きなメンバーが喋ったら嬉しいとか、それよりももっと深い次元のもの。サビ前のカウントで揃ってステップを踏む時の足が好き、とか、間奏に入る手前でクラップして、それを合図にテンションぶち上げて踊り出す姿が好き、みたいな。フェチ?と言うのが近いのだろうか。

そういうのが、なかなか見つからなかった。おおまかに言えば、歌って踊っているという状況は女性アイドルもジャニーズも同じだから、上記の例と同じような瞬間を女性アイドルのパフォーマンスにも見出そうとすればあるはずなのだが、なんだか上手くハマらない。

自身の趣味であるジャニーズに関しては、「ワクワクポイント」が形成されたグループを見に行く、という順番なので、ライブを見ていて「ワクワクポイントがない」という状況はあまり経験したことがなかった。

 

でも、「ワクワクポイント」に出会うための私なりの切り口や、タイミングは必ずあるはずだと確信していた。

ライブに足を運んだり、お手伝いをさせてもらったりして、もちろんそれも良いけれど、もっともっと自分自身に近い接点があるはず。そしてそれは、待っているだけではなかなか見つからないことも、何となく分かっていた。

 

もし私が、この世界に関わることで自主的に何かするなら、何をしたいかな。

答えは2つ思いついたが、今の私がすぐに実行できるのは1つだけだった。

 

「曲をピアノで耳コピすること」

 

もし自分がパフォーマンスをする側だったら、この楽曲をどう表現したい?

 

自分にそんな問いを投げかけてみた。

耳コピをするということは、楽曲を自分の中にインストールして、それをどうアウトプットするのかを決める、ということ。ライブを見ている時のように、受け身ではいられない。嫌でも自分から対象に向かってアプローチすることになる。

ジャニーズの曲でよく耳コピをするが、その時の私は、完全に自分もメンバーと一緒にステージに立っている。演出を見る側ではなく、創る側になっている。凄まじい妄想力。

それと同じように、やってみた。

 

…と、難しく書いているが、実際は気の向くままに遊び弾き程度にピアノを弾いてみただけ。

ピアノの前に座って、記憶を頼りにメロディを弾いて、調が特定できたら左手をなんとな〜く弾いてみて、そうだそうだこんな感じ。

一旦音源を聴いて、ここのギターの音拾いたいな、あぁ!ここの音の並び最高だわ入れなきゃ、とか新たな発見をして。

ぼんやり形ができてきたら、ちょっと崩す。原曲はギターメインだけど、ピアノで弾くならこんな感じも良いかな〜、試しにバラード風にしてみて……え!めっちゃいいじゃん!

前奏の部分でメンバー登場してステージ上の椅子に座ってもらって、照明は暗転してて、歌い出しからスポットライトが当たるとか…はー最高!私、天才か!

みたいな、いつもみたいに勝手に妄想して自分の世界でピアノを弾いてみた。

 

でもそれが、楽曲への愛着を形成し、「ワクワクポイント」へと繋がったようだ。

Aメロから弾けるように踊り出すのが好き、3〜4小説目のコード進行が好き、ギターの音と掛け合いのように歌が入るのが好き、間奏はシンプルなギターの音でガシガシ踊ってるのが好き、間奏明けは1番のAメロと入りの音が変わるとこが好き…

今、サラッと曲を思い浮かべただけで、ワクワクポイントがこれだけ出てきた。

何となく耳コピがモヤモヤの突破口になりそうだ…という予感はしていたが、耳コピ後に実際にライブを見て、こんなにも感じ方が変わるとは思わなかった。

 

愛着がわいたことを自分自身できちんと自覚できたことが何より嬉しかったのだが、それを1番実感させてくれたのは、ファンの方々のコールだった。

それまで、自分の中でなかなか警戒心が解けなかったのが、女性アイドル界隈特有のコールだった。自分が普段見に行っているジャニーズのライブにもコールはあるが、それとはかなり様子が異なる。

ライブハウスという狭い空間で何十人もの男性が集結して出す声は、かなりエネルギーが強い。加えて、聴き慣れていない音なので、恐れるものでは無いと頭で分かっていても、無意識に身体が構えてしまっていた。

そのコールに、感動した。それが、「自分ゴトとして好きになった」ことの、1番の証拠だった。

コールは、この世界のパフォーマンスを構成する大事な一要素だと言うことを、ようやく感覚的に理解できたんだと思う。

 

これからもきっと、新しい世界に出会う度にビックリして戸惑うんだろう。しなくてもいい警戒をするんだろう。

最初からもっとリラックスして新しい世界を楽しめるようになりたいとも思うが、周囲の環境を敏感にキャッチしてしまう高性能すぎるアンテナを持つ私に、それは難しい。

戸惑いながらでも警戒しながらでも良いから、自分のペースで、自分なりの方法で、新しい世界と仲良くなるための入口を探っていこう。